クシノテラス

会期:2017年4月30日(土)~ 10月9日(月祝) 13:00 ~ 18:00
※都築響一の性器蝋人形コレクション・向井東冥は下記日程で一部展示替えがあります。
【前期】2017年4月30日(土)〜7月17日(月祝)
【後期】2017年7月22日(土)〜10月9日(月祝)

開館:土曜・日曜・祝日・月曜
※9/9(土)、9/10(日)、9/11(月)は休館いたします。
急遽休館する場合もありますので詳細はお問い合わせください。

観覧 : 一般 1000 円
※ 18 歳未満の方はご入場いただけません。
会場にて年齢のわかるもの(免許証等の身分証)をご提示いただく場合があります。

お問い合わせ:TEL 090-2094-2652

性欲スクランブル

 いまの社会では、「性」は「恥ずかしいこと」「汚らわしいこと」というのが一般の通念であり、できるだけ曖昧に隠蔽し偽善的に回避しようとする傾向にある。「さわらぬ神にたたりなし」というタブーを侵そうとする動きに対しては、刑法175条が鋭敏に取り締まりを行なっているが、明治時代に制定されたこの法律の示す「わいせつ」の定義は、2011年に一部改正され、「わいせつ物」から「わいせつ情報」にまで射程範囲が広がったものの、その取締りの範囲は過去の判例を典拠としているに過ぎず、時代や社会によって変化する流動的なものとなっている。加えて、インターネット上には露骨な性が溢れ、誰もが容易に越境できる現状にも関わらず、旧来通りの「わいせつ概念」を適応し続けていることについては甚だ疑問が残る。

 そもそも明治以前、日本人の「裸体」に関する考えは、現在よりおおらかなものだった。各地に残る性器崇拝の風習にはじまり、混浴の公衆浴場や人前での行水など、自然な裸体そのものに特別な罪や羞恥心の意識を見出すことはなかった。ところが、近代化の過程で禁欲的な欧州的倫理観を是とした明治政府は裸体・混浴・性風俗に関する様々な禁止政策を次々と打ち出し、日本社会は裸体を当然なものとする社会から裸体を「わいせつ」とする社会へと変化を遂げていった。

 こうして明治以降、近代日本人により作為的につくられた性の概念だが、「性器が露出しているかどうか」を判断基準とする性器中心主義的な規制は、裏を返せば「性器が見えなければ何をやっても良い」という解釈を生み出し、日本のポルノグラフィを良くも悪くも発展させてきた。一方で、こうした規制で「隠すこと」によって、「隠されたものへの興味」と「隠されるものへの羞恥心」が生まれ、それがかえって人々の性的興奮を高めてしまう結果を生んでいる。「一念岩をも通す」という言葉を信じ、かつては誰もがパンツの中の宇宙を想像し、見えないからこそ人は妄想し想像力を育んだものだ。そして、こうした表現と規制をめぐる激しいスクランブルのなかで、法規制の裏をかいて様々な知恵や工夫が磨き抜かれ、日本独自の隠微な文化が花開いていった。

 そこで本展で紹介するのは、性への飽くなき追求から生み出された4組の表現だ。ある老人が自らの妄想を具現化し蝋人形師につくらせた性器蝋人形や愛煙家の男性が体内に取り入れるために成人向け雑誌で自作していた喫煙具、そしてカストリ雑誌から自販機本まで成人向け雑誌を幅広く研究・収集し続ける男性や場末のスナックでエロスの匂い漂う人形制作を続ける店主の姿など、そこには現代社会が忘れ去った豊かな「性」と「生」の姿がある。テクノロジーには頼らない市井の持たざる者たちが生み出した表現を通じて、現代の多様な性文化のあり方が肯定されることを願ってやまない。

  • つづききょういちのせいきろうにんぎょうこれくしょん

    都築響一の性器蝋人形コレクション

    今から 40 年以上前、北九州で古物商を営んでいた老人が、極秘で蝋人形師の松崎二郎氏に女性の全身像と下腹部のみの 28 体の蝋人形の制作を依頼した。

    女性の全身像はミス・ユニバース世界大会優勝者である児島明子の顔をモデルに、28 体の蝋人形は、老人自らが構想した特徴ある性器を画家にイメージを伝えて描かせた資料などを元に制作。

    完成後は、他者に知られることなく鍵のかかった蔵の中で厳重に保管し愛でていたが、1998 年に彼は逝去。

    死後、家族がそれらの処分に困り蝋人形師の松崎二郎・覚兄弟の元に返却したコレクションを都築響一が引き取った。

  • はんだ かずお

    半田 和夫

    1952年、広島県尾道市生まれ。

    愛煙家であり、成人向け雑誌を短冊状に切り、鉛筆や割り箸に巻きつけて、ボンドで固めた喫煙具を自作。

    刻んだ煙草の葉を火皿に詰め、実際に吸い込んでいたが、病のため2016年5月逝去。

    死後、自室から自作した煙草盆や多量の喫煙具が発見された。

  • むかい とうめい

    向井 東冥

    性研究家。

    1982年生まれ。広島県在住。

    学生時代より古書店を巡り成人向け雑誌の収集を始める。

    80年代に流行した"ビニ本"や"自販機本"から90年代に流行したサブカルチャー色の強い"鬼畜本" に至るまで、「アンダーグラウンド文化のるつぼ」だった時代の成人向け雑誌を収集し続けている。

    推定一万点の資料を抱える一方で、失われゆく風俗文化を調査するため、夜の街のフィールドワークにも精を出している。

  • じょうでん さだお

    城田 貞夫

    1940年生まれ。広島県在住。

    東京で「はとバス」の運転手として23歳まで働いた後、広島県福山市に戻り自動車の塗装業を経て、42歳より広島県福山市でスナック「ジルバ」を開店。独学で身近な素材を使ったカラクリ人形やひとり芝居用の舞台セット、木彫り人形など多彩でエロス溢れる作品を作り続けている。