クシノテラス

会期:2020年5月30日(土)~ 8月30日(日)
11:00~17:30
休館:木曜日
会場:にしぴりかの美術館
(宮城県黒川郡大和町吉岡字館下47)

ここにいる

戦争や天災、飢饉などにより、生存が不確かな時代においては、生きることそのものが人間の目的となっていた。

しかし、社会が成熟し、命の危険がないことが当たり前の現代においては、自らが生きる意味を自分で見つけることが求められるようになっている。

僕たちは、自分はいったい何者で、いかに生きるかを常に模索している。

ましてや、SNSで他人の幸せが目に入ってくるようになったことで、自分の人生に不安を感じている人も多い。

しかし、いくらお金を手にいれ高価な品に囲まれ、多幸感に包まれたとしても、その充足感はやがて失われていくことを僕らは知っている。

一時的な幸せに対する人間の欲望には際限がないことは、あらゆる歴史が証明しているだろう。

同時に、ひとと違うということや自分の感覚に従うことは、正しいことだと分かっていながら、自分らしくいることは、とても怖いことだということにも僕らは気づいている。

そうしたなかで、既存の評価軸に左右されることなく何かに没頭して生きている人は、強い「自分」を持っている。

そこで本展では、「自分」の存在を中心に据えた独創的で強烈な自己表現を紹介させていただく。

路上で、自宅で、アトリエで、そしてスマートフォンの画面の中で、

彼ら/彼女らは、自分だけの居場所をつくりだし、自分が何者であるかを世界に知らせている。

耳をすませば、きっと君にも届くだろう。

「ここにいる」という力強い声が。

  • はら ゆきこ

    原 夕希子

    1987年生まれ、広島県在住。

    小さい頃から絵を描くことが好きで、中学時代から美術部に在籍。

    「他人より手が大きいことがコンプレックスで、だからこそ気になっていた」という彼女は、昔から自分の手を描いてきた。

    手のデッサンを何枚も続けていくうちに、掌ではなく手の甲を頻繁に描いていることに気づく。

    そのとき、自分の指の皺が柔らかく綺麗で、特に左手の中指の皺がとても整っていることを初めて認識。

    以後、「美人でもスタイルが良いわけでもない普通の人間だった私が、唯一美しいと思ったのが左手中指の皺だった」と、「ゆびふし」(中指の節の略)と名付けた絵を描き始める。

  • たん さくぞう

    丹 作造

    1958年生まれ、東京都在住

    大学卒業後から現在までビル清掃の仕事に従事。

    30歳のときから、仕事の合間に独学で音楽活動と絵画を始めるが、音楽活動は5年で挫折。

    35歳より、本格的に絵を描き始める。

    自身の清掃の仕事に対する他者からの差別的意識が、彼の制作の原動力になっており、絵のなかには彼をさげすんできた人物が描かれている。

    彼にとって絵を描くことは、そうした人たちに対する怒りや暴力的衝動を抑えるための「特効薬」になっている。

  • よなは しゅん

    与那覇 俊

    1979年生まれ、沖縄県在住

    大学4年生になったとき、「おじいさんの生霊が頭の後ろに取り憑いている」と周囲に訴えるようになる。

    やがて、生霊の存在は与那覇さんに精神的な不安定さをもたらし、家族へ助けを求めるようになる。

    2013年9月、知人の作品に触発され、本格的に絵を描くようになる。

    次第に大判の紙に描き始め、画中の至るところには、みずからに取り憑く「おじいさん」の姿やそのセリフを描いている。

    ときには自身に関連した実在の人名や出来事を描くこともあり、みずからが経験した情報を絵に反映させている。

  • ぴんくすきー

    ピンクスキー

    1986年生まれ、神奈川県在住。

    小学生の頃から、生理前に絶望感や自殺願望が現れる月経前不快気分障害(PMDD)で具合が悪くなり、自宅で過ごす日々が続く。

    21歳のとき、統合失調症の診断を受け、入院治療を経験。

    退院後より、家族のサポートを受けながら一人暮らしをさせる。

    20代半ばより、女性をモチーフとしたポップなタッチの絵画を独学で描き始める。

     

  • たくま

    太久磨

    1986年生まれ、香川県在住。

    アニメーターや映画監督などを目指し上京するも挫折。

    ゴッホに憧れ絵の道を志していた22歳の時、宗教団体Alephの勧誘を受け入信。

    仕事終わりに毎日道場へ通い、ヨガの修行を続ける。

    29歳で脱会してから、「自画像としての植物」と題した絵を描き始める。

    2015年5月に香川県に帰郷してからは、アルバイトをしながら絵画制作に打ち込み、3年間で100点以上を描いている。

  • すぎの いちを

    スギノ イチヲ

    1965年生まれ、広島県福山市在住。

    2017122日に自宅でくつろいでいた際に、ガムテープなどを利用してキダ・タローに変装したところ、快感を覚え、その日からInstagramへの投稿を続けている。

    好きな作家の顔まねを「#おじコス」とハッシュタグをつけて投稿し続けることで、自分が好きな作家を他の人にも知ってほしいという思いを抱いている。

  • まきえまき

    マキエマキ

    1966年生まれ。埼玉県在住。

    93年よりフリーの商業写真家として活躍する一方で、昨年秋に「愛とエロス」をテーマにしたグループ展に出展したことがきっかけで、自撮り写真の魅力に目覚める。以後、夫の協力を得ながら、セーラー服に始まり、ホタテビキニから女体盛りまで様々なロケ地やシチュエーションを模索しながら、「人妻熟女自撮り写真家」として発表を続けている。

  • えんどう ふみひろ

    遠藤 文裕

    1972年生まれ。福岡県在住。
    20歳のとき、ノートの1ページを利用して「幻マガジン ナンセンス」という誰にも見せることのない豆本を2年間で全99巻制作。

    その内容は4コマ漫画や連載小説や編集後記など多岐にわたる。

    その後、勤めていた医薬品卸会社の同僚などをモデルに本社宛ての電子メールに小説を執筆。

    現在も保管されているノートには大量のネタが細かい字で記されている。

    やがて、自らが訪れた美術館や映画館のスクラップが紙面の多数を占めるようになり、有名人やそれとは無関係の風景をコラージュした「関連妄想」の世界を楽しむようになる。

    現在は、櫛野展正を追いかけながら仕事の合間にスクラップ制作に勤しむ日々を送る。

  • がたろ

    ガタロ

    1949年生まれ。

    広島市の市営基町アパート1階にあるショッピングセンターで、毎朝4時から30年間専属清掃員として勤務。清掃の仕事が一段落すると、拾ってきたクレヨンや鉛筆で絵を描き始める。描くのは、友人のホームレスや掃除道具など人から注目されることのないものたち。